ウイスキーの物理学

今回は研究の話です。
約1年前、文理学部から出版した新書「知のスクランブル」(ちくま新書)の中に新しくスタートさせた研究テーマを一般の方にも分かりやすく説明するため”ウイスキーの物理学”としてお酒の話に絡めて執筆しました。
その研究テーマが、ようやく論文という形になって公開することができましたので、内容を簡単に説明したいと思います。

“Brownian motion probe for water-ethanol inhomogeneous mixtures”
Kazuki Furukawa, Ken Judai, The Journal of Chemical Physics, 147, 24452 (2017).

ウイスキーをはじめとする蒸留酒の成分である水とエタノールですが、具体的にどのように分子が混じり合っているのか未だに分かっていない問題なのです。この問題に対して、新しい実験的手法を開発したのが、今回の論文の主旨です。
こちらは水の中に浮かべた1ミクロンの粒子の10秒間の軌跡です。ブラウン運動と呼ばれ、乱雑に予測不能な動きを示します。1ミクロンの粒子に水分子が熱運動で乱雑に衝突するので、このような動きを示すのですが、ブラウン運動を詳細に観測すれば、分子の動き、水とエタノールの分子レベルでの混ざり方に繋がると考え、研究をスタートさせたのです。
まだまだ、水とエタノールの混ざり方の解明にはたどり着いていませんが、混ざり方が1ミクロンといった巨視的に(分子から見たら)不均一であることが判明しました。

研究の話ばかりだと息が苦しくなるので、小休止。今回の論文は、私にとって色々新しいことに取り組んだものでした。新しい実験手法を開発したのですが、これまでの自分の研究を1本も参照していない論文です。普通は研究の流れから何本か過去の自身の研究をリファレンス(参照)するのですが、全く新しい自分の研究テーマであり、真のオリジナルペーパー、これから研究を広げるぞと考え執筆しました。また、物理学科に異動になって、LaTeXで書いた最初の論文でもあります。こんなに数式を書くことが無かったためMS Wordで論文を書いていたのですが、研究内容が変わったため数式表現の得意なLaTeXを使うようになりました。ようやく自分を物理学者と名乗ってもよいのではと思えるようになりました。