光ピンセット (Optical tweezer)もしくは光トラップ (Optical trap)と呼ばれる実験装置の説明をしたいと思います。まず、この実験手法を発明してアシュキンは昨年2018年にノーベル物理学賞を受賞しています。十代研究室にも装置があるので、こちらで紹介しているのですが、ノーベル賞を受賞した装置があるのが凄いのではなく、こんな研究室でも活用されている凄い装置を発明したからノーベル賞を受賞したのです。
まず、実験装置の全体図の写真をお見せします。そんなに大きくはないのですが、高そうな機器で構成されていますが、重要なポイントは、写真中央にある顕微鏡のレンズです。顕微鏡のレンズによって物質を捕捉(トラップ)して、自由に移動させる(ピンセット)ことができる装置なのです。
まず、半導体レーザーから発振されたレーザー光線が光ファイバー(写真の黄色の線)の中を通って光学パーツ部に入ります。ビームエクスパンダー、ダイクロイックミラーなどを通り、顕微鏡の対物レンズで集光してサンプルに照射されます。単に光を集光したいだけなので小学校の実験の虫眼鏡でも良いのですが、強く集光(焦点距離を短く、かつ、1点に)したいので、顕微鏡の対物レンズを使っているのです。ちなみに、顕微鏡の対物レンズを虫眼鏡の代わりに使ったことがありますか?研究室には対物レンズが転がっているので、細かなところを観察するのに、たまに対物レンズを虫眼鏡の代わりに使います。
顕微鏡の対物レンズでレーザー光を集光していると、上の図のように焦点近くに微粒子(直径1マイクロメートル程度)があると、力が働き、粒子を焦点位置の方向に引き寄せます。力が働く理由は、図のように光が粒子の中を通り屈折することで、光(光子)の運動量変化による場合と、焦点近くでは光電場の変化が大きく、誘起双極子(誘電率)による電磁気学的な力の場合とがあります。(粒子の大きさで要因は異なります。)
とにかく対物レンズでレーザーを集光すると焦点近くで微粒子に力が働き、微粒子を焦点に動かそうとするのです。その様子を顕微鏡で観測していると、ブラウン運動でランダムに動いていた微粒子が急に一方向に動き始め、ある位置に捕捉(トラップ)されます。レーザーを切ると、トラップが終了し、微粒子は自由に動けるようになるし、レーザー光ごと空間を動かすと、トラップされている微粒子もレーザーと一緒に動いてくるのです。だから、光ピンセットとも呼ばれているのです。
この光ピンセット装置は、主に生命科学の領域で使われていたりします。細胞内に微小な力を測定したりすることもできます。ただ、十代研では、お酒の研究に使用していて、水とエタノールがどのように混合しているのかブラウン運動の詳細を解析するために使っています。トラップした微粒子が周囲の分子が衝突して微妙に動いているところを観測して・・・(専門的になり過ぎたので、今日はこの辺で)