物理学科をご定年された先生の電子顕微鏡を引き受け管理していますので、ここで、紹介したいと思います。日本電子のJSM-7001Fという装置になります。下の写真をよく見ると型番がJSM-7000Fとなっていますが、日本電子から販売されて、かなり早い時期に購入されたらしく、外見の型番と中身に入っている機器に差があるそうです。(こんな情報まで引き継いでいます。)
JSM-7001F
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, SEM)とは、細く絞った電子線を表面に照射し、出てくる電子(2次電子や反射電子)を分析することで表面構造を観測する装置になります。走査型(英語ではScanning)とありますが、表面に照射する電子を左から右に何度も徐々に上から下に移動させながら測定するので、表面の細かな構造を調べることができます。どれくらい細かく分析できるかと言うと、この装置では、10 nmを軽く切る程度には電子ビームを絞ることができます。(分解能で1.2~3.0 nmとなります。)
一般の人に顕微鏡の説明をすると倍率はどれくらい?と聞かれることが多いのですが、我々が普段使用している倍率は1万倍程度が多いのですが、そもそも倍率に興味はありません。コンピュータで画像を取り込んでいるので、拡大しようと思えば、いくらでもコンピュータ上で拡大できるからです。重要なことは、どれくらいはっきりと細かくナノ粒子が観測できるのか、分解能が最も重要なのです。
ショットキー電界放出形電子銃
電子をどれくらい細く絞ることができるのかが電子顕微鏡の分解能に関わってきます。そのために最も重要な要素は電子を真空中に放出する電子銃です。この写真の一番上の部分に電子銃が存在し、装置の中(真空の中)を上から下にビームが飛んでいます。
細かく絞るためには、小さな空間から電子が出ている必要があり、昔、紹介した簡易SEMとは根本的に違う原理の電子銃を搭載しております。ショットキー電子銃とよばれるものであり、加熱した金属表面に高い電界をかけて電子を放出しています。細い金属の針先が特に電界が鋭くなり、その先端の1点から電子が放出されるため、電場・磁場レンズで電子ビームを再度、細く絞ることができるのです。
このショットキー電子銃の特徴として、細い電子ビームが得られるだけでなく、そのビーム強度が大きいことも挙げられます。上の写真の左側に液体窒素を入れるタンクがあるのですが、この電子顕微鏡はX線の検出器も装置に搭載しており、EDXと呼ばれる元素分析も可能な装置です。この元素分析を行う際に、どれだけ多くのX線が発生できるかがポイントであり、電子ビームの強度メリットが活かせるのです。
10年戦士
文理学部の先生・学生で使用したい方が居ましたら、気兼ねなくご連絡下さい。折角なので、サンプルホルダーの写真も載せておきます。直径25mm程度の銅の上に試料を張り付けて測定します。金属で非磁性のものに限られますが、サンプルに関する相談も受け付けます。
かなり真面目な電子顕微鏡の紹介に終始してしまったので、少し小話を。こちらの電子顕微鏡も購入後10年以上が経過しています。いろいろな部品に故障が発生してきている時期です。(10年経過した自動車と同じ用な感じです。)それを騙し騙し使って実験結果を得るのも実験研究者の腕の見せ所なのですが、ドイツでのポスドク時代にスイス人の友人(ラボメンバー)と実験装置に関して、こんな会話をしました。
「実験装置って、男性かなぁ? 女性かなぁ?」
(装置を受ける主語に対して、Heか Sheか Itかという問題。英語では物に対してはItだけど、ドイツ語だと男性名詞、女性名詞、中性名詞で変わってきます。)
「それは、やっぱり、女性でしょう。(根拠のない二人の同意)」
「彼女(装置)は、気分屋さんだし、対応する相手で態度が変わるし、おだてて大事に使わないと後が大変だもの」
この後、二人で、実験装置を磨いたのでした。