アラルダイト(Araldite)代替品

実験屋さんにとって実験装置を開発・メンテナンスするのは一丁目一番地の仕事なのですが、その中で最近困っていたことが何とかなりそうなので、情報共有です。他にも困っている研究者が、このページを元に解決して、研究が進むのであれば何よりです。

アラルダイトの代替品は、コニシボンドのEセット!!

まず先に結論から述べました。

アラルダイト(Araldite)って何?という人も居るでしょう。その説明からしましょう。「スイス生まれの高性能接着剤」と書かれており、急速硬化タイプ(ラピッド)と、ゆっくり硬化タイプ(スタンダード)の2種類あります。エポキシ系の接着剤で、基本的にどちらも主剤と硬化剤の2液をヘラでこね回して、接着面にねちょっと付けて固まらせるものです。固まるまで時間が掛かりますが、ラピッドでも2時間、スタンダードでは12時間と、その間に接着物を固定しておく必要がありますが、かなり強力に固まります。また、隙間なく固まるので、真空装置で空気が入らないようにするために使う場合もあります。(あまり良い使い方ではないのですが、予備実験などには大活躍します。)

そんな優れた接着剤なのですが(付き合いは研究を始めてすぐだったので30年近く)、数年前に研究費の残額でアラルダイトを買おうと(重宝する接着剤なので予備にあっても全く問題ない)カタログを探していても見つからず、その時は別のものを買おうと切り替えたのですが・・・後で判明したのが、アラルダイトの発売停止でした。
アラルダイトに含まれている化学成分が日本で禁止されることになったとかで、接着剤の変更ではなく、発売停止になっていました。エポキシ系の接着剤なら他にもあるだろうと楽観していたのですが、これまでエポキシ系接着剤の不動の地位を築いていたアラルダイトは、やっぱり違いました。暗中模索でたどり着いたのが、コニシボンドのEセットでした。

正確に表現すると、接着剤で有名な会社である「コニシ株式会社」が販売している「ボンド Eセット」品番#16023です。こちらもエポキシ系の接着剤でアラルダイトと同じように2液を混合して接着するスタイルです。アラルダイトとの違いは、アラルダイトで付属される2液混合するための台座が無いこと(ヘラは付いています)と、内容量が30gから15gとずいぶん少ないことくらいでしょうか。(値段は忘れました・・・)
単なるコニシボンドのEセットの紹介だけでなく、実際に実験で使った感想も書いていきたいと思います。現在、ブラウン運動の研究を行っているのですが、簡単に言うと光学顕微鏡で小さなプラスチック球の液体の中での動きを観察しています。液体の温度も重要で、温度を厳密に制御しながら、光学顕微鏡で観察する必要があります。そのため単純なプレパラートを顕微鏡で見ているのではなく、専用のサンプルホルダーを自作し、そのサンプルホルダーで顕微鏡観察しています。感覚を掴むには、実物の写真を見るのが早いでしょう。

温度を一定に保つためにアルミニウムのブロックを加工しており、中央の窪みは、対物レンズが近付けるようにフライス加工をしています。凹み部分の中央に直径1mmの穴を空けており、ここを液体で満たし上下をカバーガラスで挟み込み観測をしています。アルミのブロックには温度制御用にホースを繋いでおり、チラーという温度制御水流発生装置の水を循環させています。
ようやく、ここでアラルダイトの登場です。自作のサンプルホルダーにおいて、穴を空けたアルミとホースを繋ぐ部分に接着剤が使われております。循環させる水流が飛び出て来ないようにアルミの出入り口部分でホースを密閉するのにアラルダイトが重宝しておりました。ただ、2年ほど使っていると経年劣化で水漏れがするようになるので、定期的にホースやアラルダイトの交換をする必要があります。
アラルダイトの重要性は理解できましたでしょうか? 販売停止で困っていたところ、コニシボンドのEセットでの密閉を1年前に実施しました。アラルダイトでは、ネバネバしていても数時間も放置するので、重力で接着剤が垂れ落ちていくのですが、その垂れ落ち具合もEセットには引き継がれています(引き継がれなくて良いのですが)。あれから1年経過して、水漏れも起こさずにブラウン運動の実験で使えることが判明したので、この記事にまとめるに至りました。当面はコニシEセットを活用することとし、未開封のアラルダイトはとっておきの実験まで、とっておこうと考えています。