今回は研究の話です。水とアルコールの混合状態の研究をしていると、液体の粘性率に興味が湧いてきました。液体のサラサラ具合、ドロドロ具合を表す粘性率という物理量ですが、どんな仕組みで粘性率が決まるのか知っていますでしょうか。少し知識がある人なら、高分子の粘性率が大きいことから分子量が粘性率を決定しているのだろうかと予測されるかもしれません。確かに、分子が絡み合っていると粘性率が高くなるのですが、単純な分子である水とエタノールの混合溶液ですら、その濃度で粘性率が大きく変わってくるのです。つまり、分子と分子の相互作用が、液体全体としての粘性率に繋がっているのです。そんな視点から液体の粘性率を考えると、粘性率というマクロな物理量を測定することで、ミクロな分子の相互作用の情報に迫ることができると感じ、マクロとミクロを繋ぐ研究として非常に興味を持つようになってきました。
水とアルコールのブラウン運動の研究でも実験結果の解析に粘性率が必要なこともあり、研究室で粘性率を測定できる体制を整えました。粘性率の比較的小さい水やエタノールは、毛細管粘度計を用いて測定します。ガラスの細い管の間を流れる液体の早さから粘性率を求めます。ただ、粘性率は温度によって大きく変化するため、温度を制御して測定する必要があり、恒温槽と呼ばれる温度一定の水の中に、ガラスの毛細管粘度計を浸けて測定するのです。しかし、毛細管粘度計の専用恒温槽を購入しようと思ったら、数十万円という金額が目に飛んで。思わずヒィヤーと叫んでしまいました。普通の恒温槽は硬化プラスチックなどで作られているのですが、毛細管粘度計用は、ガラス管中の液体が落ちていく様子を観察する必要があり、恒温槽を横から目視できる必要がある、そんな特殊な装置だったのです。そんなときは、実験はアイデア勝負です。自宅で熱帯魚を飼育していた記憶から、熱帯魚用の水槽なら2万円程度だろうと、格安の毛細管粘度測定システムの完成です。観賞用の熱帯魚のための水槽ですから、サイドからの観察はバッチリ、ストップウォッチを片手に水槽の中を見つめる毎日でした。
熱帯魚用の水槽で粘性率測定システムを作り上げたことに気を良くしたのか、さらなるシステム改造に走りました。時はコロナ禍の真っただ中、オンライン会議が山のようにスケジューリングされており、カメラやマイクも試行錯誤でいくつも試したりしました。待てよ、オンライン会議用のUSBのWEBカメラを水槽観察に使えば、粘性率の自動測定が出来るのでは??今度はアイデアというより思いつきで突っ走ります。余っていたWEBカメラ2台を水槽の脇に設置して、後は、プログラミングです。コロナ禍は在宅ワークという名のプログラミング時間を大量に提供してくれます。ブラウン運動の研究で培っているOpen CVの知識を駆使して、液体の液面の移動は、まず、Background Subtractor MOG2 を使って動いている部分を検出して、さらにnumpyのconvolveで畳み込みをかけて片側の場所を特定 ・・・ ・・・ ・・・ 試行錯誤はあったのですが、コロナ禍明けに実験を効率的に行うためのシステム完成となりました。