音でワイングラスは割れるのか?(1)

文理学部で教職支援センターが開設されてから、中学・高校の先生とお話しする機会が増えました。そして、研究室の学生で相当数が理科の先生として就職していきます。最先端の研究を通して教育をしていくと意気込んでいますが、教員を養成することで、日本人の理科離れに間接的に少しでも貢献できればとも思うようになってきました。そこで、毎夏に世田谷の子供たちを対象に開催される科学実験・文化フェアというイベントにおいて、物理現象を体感してもらえる企画を考えました。
共鳴という現象は非常に重要な物理現象です。例えば、テレビの映像がチャンネルによって切り替えられるのも、アンテナの周波数を共鳴現象で選択しているためであり、電波を使う機器、携帯電話や無線LANなど、すべてにおいて共鳴が使われています。
そんな重要な共鳴現象を体感できる企画として考えたのが、ワイングラスを音で割るというイベントです。原理的には理解できるのですが、どれくらい簡単なことなのか、それとも、かなり難しいことなのか、実際に実施してみようと考えました。ワイングラスは、その形から、上側のワインが入る部分と土台が細い脚(ガラス)で連結されており、ワイングラスの上側の固有振動エネルギーが溜まりやすい構造をしています(専門用語では、Q値が高い構造)。そのため、その振動数に合致する音を照射してあげれば、共鳴現象で音のエネルギーがワイングラスに溜まっていき、最後には、グラスは破壊されると予想されます。果たして、こんなことが可能なのか、まずは、ネットで情報を収集することから始めました。

音でワイングラスを割る(私の工夫) 秋田県立増田高校 小田部 泉 先生
音でワイングラスを割る 新潟県立直江津高校 宮田 佳則 先生 (動画あり)
ワイングラスの共振 (You Tube)

これらの情報から分かったことは、普通のスピーカーでは難しいかもしれない。YouTube の動画などでは、日本語以外に英語で検索などもし、様々な成功例を探索した結果、ホーンドライバーという特殊なスピーカーが必要であり、その値段が高いということも分かりました。私自身は学生時代にオーディオ工作にはまっていた時期があり(スピーカーやアンプを自作していた)、オーディオの世界では高い金額を出せば、よりよい音響環境が作られます。ワイングラスを音で割るのも高いスピーカーに高いアンプを繋げれば、割ることができる、そんな情報でした。
しかし、理科(物理)を体感して貰いために多くの中学・高校の先生方に真似をしてもらいたいので、なるべく安価にできることを目指しました。ただ、ワイングラスを音で割るというと共鳴周波数を探して、その音を当てればよいと簡単に思えますが、一番、肝心なことは、スピーカーが壊れないうちにワイングラスを割らなければ、ならないのです。つまり、スピーカーは音を発生させるために、コイルと電磁石で膜を振動させています。その音を吸収させてワイングラスも振動させます。ワイングラスが割れる前にスピーカーの膜が壊れてしまっては意味がありません。当然、普通に考えて、ワイングラスの場所より、スピーカーの音を発生させる部分の方が、音が大きいでしょうから、相当、丈夫なスピーカーが必要となります。それが、ホーンドライバーという選択だったのでしょう。また、それをドライブするアンプも、スピーカーが壊れるくらいのパワーが入力できるハイスペックなアンプが必要となります。考えただけで、高級オーディオでないと達成できないと感じますが、どのようにして安価な装置で達成するのか、次回以降にまとめていきたいと思います。