○○ 研究テーマ ○○

 十代研究室では、ナノテクノロジーの分野に対し、化学的なアプローチから研究を展開しています。その成果は基礎物理の分野や、もちろん工学の分 野、そして、ライフサイエンスにも及び、非常に広範囲の学際的な研究です。物理生命システム科学科の学生として、物理・化学・生物学と幅広く学習を行って もらい、研究室に入ってからは、まず、一つの研究テーマを極めることから始めてもらいます。そして、その知識を武器にその研究が科学全般のどの分野に位置 するのか自分で感じてもらえるように幅広くその研究対象の応用性を考えてもらうつもりです。
 「ナノ」という研究分野が、その大きさ(しかも一般的な分子の大きさ)だけで定義される分野であるため、応用研究先は、多岐に渡ってしまうのが必然でも あります。
    以下には、特に研究室で現在取り組んでいる課題を列挙しています。


 金属クラスター

 ナノテクノロジーのような小さな小さな物質の世界は、特殊な装置を利用する目では見えない世界だと思っていませんか。電子顕微鏡なども駆使して研究を 行っていますが、肉眼で感じられるナノの世界もあります。
 ゴールド(金)の色は、オリンピックの金メダルや金貨などで皆さんにもお馴染みだと思います。しかし、ヨーロッパなどを旅行した際に教会に立ち寄ったと きのステンドガラスの赤色が金メダルと同じ金元素で作られていることをご存じですか。中世ヨーロッパのガラス職人は、ガラスの中に微量の金を混ぜることで 綺麗な赤色を作ることができることを経験的に知っていました。後に、金は金メダルや金貨のような大きさがあれば、金色に輝くことができるけれども、ナノの 大きさの金は、もはや金色ではなく、赤色になることが判ってきました。つまり、ステンドガラスの中にナノの大きさの金が存在するから綺麗な赤色のガラスに なっていたのです。ステンドガラスを見て赤く感じることができたら、それは、ナノの物質の色を見ているのです。この例のように、物質は大きさをナノ程度ま で小さくすると、色以外にも様々な物理的化学的性質が変化してきます。そのナノ物質の特性を中世のガラス職人のように上手に生活に役立てようとしているの がナノテクノロジーと言えます。
 その中で、金属ナノ微粒子の中でも非常に小さいクラスターと呼ばれる物質を中心に研究を行っています。触媒などへ応用を目指し、金属クラスターを合成 し、評価を行っています。

"Low-temperature cluster catalysis"
K.Judai, S.Abbet, A.S.Worz, U.Heiz,C.R.Henry J. Am. Chem. Soc. 126,2732 (2004).

"In situ preparation and catalytic activation of copper nanoparticles from acetylide molecules"
K.Judai, S. Numao, J. Nishijo, N. Nishi J. Mol. Cat. A 347,28 (2011).

Nortre-Dame
パリ ノートルダム寺院のステンドガラス



 ナノワイヤー

 ナノテクノロジーで真っ先に思い浮かぶのはコンピュータなどの半導体LSIの配線サーキットではないでしょうか。パソコンが年々早くなっているのは、半 導体の加工技術が進歩し徐々に細い電気配線でトランジスタなどを作ることが出来るようになったからです。細い配線では流す電流が少なくて済み、発熱量が少 なくなり、早く計算することができるようになります。しかし、ここ数年間は半導体の加工技術が頭打ちとなり抜本的な技術革新が求められています。その筆頭 候補がナノテクノロジーにおけるボトムアップ法です。簡単に説明するとすれば、分子自身の力を利用し、コンピュータの配線を作成しようという試みです。こ の研究室では銅アセチリドという分子を用いて、今のコンピュータ半導体の太さの10分の1の直径2nmの銅ナノワイヤーを作成することに成功しています。 このような金属細線では、銅原子が直径方向に8個程度しか並んでおらず、電気が流れるのかといった基本的な性質すら未だ判明していません。

"Self-Assembly of Copper Acetylide Molecules into Extremely Thin Nanowires and Nanocables"
K. Judai, J. Nishijo, N. Nishi Adv. Mater. 18,2842 (2006).



 らせん構造

 遺伝子DNAやタンパク質のαヘリックスなど重要な生体物質の多くで、らせん構造が見られます。これらは分子レベルでの「らせん」ですが、巻貝 の渦巻きや、つる植物などではスプリングのような目で見える「らせん」構造も生物には多く存在します。そんな「らせん」の起源を分子レベルで解明しようと いうのが、この研究テーマです。銀アセチリド系の化合物を結晶化させるとリボンがねじれた「らせん」構造が出現します。大きさは、分子よりは大きく、目で は見えないナノの大きさで、分子構造が、どのようにマクロススコピック(ナノスコピック?)の「らせん」構造に繋がるのかモデル化合物として注目し研究を 行っています。


銀アセチリド系化合物の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)

 カーボン

 炭素材料(カーボン)は世の中いたる場所で使用されています。小さいところでは、携帯電話・スマートフォン・ノートパソコンのバッテリーとして 使用されているリチウムイオンバッテリー、この電極は炭素材料です。大きい方では、飛行機の胴体や羽の材料、燃費が良く、長距離の飛行ができるように、軽 さと強さを併せ持つ材料が要求されます。そこで、カーボンファイバーという炭素材料を入れ込むことで達成しています。
 ちなみに自動車のタイヤが黒色ばかりであることに疑問を持った人は居ませんか?車のボディーカラーは様々なものが存在するのにタイヤは必ず黒色。これ は、タイヤの性能を発揮させるためには、どうしても黒色になってしまうからです。ゴムで出来ているタイヤには強度を上げる上で、ここでも、大量のカーボン ブラックが練りこまれています。ゴムには様々な色を付けれますが、カーボンブラックが黒色なために、どうしてもタイヤは黒色となってしまいます。もし、タ イヤの強度を満たし安価でカラフルな炭素材料を作ることができれば、将来、様々なタイヤの色の車が走る世の中になるかもしれません。
 実は、近年、ナノの分野でカーボン材料が広く研究されるようになっています。フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどと呼ばれる物質群です。 フラーレンでノーベル化学賞、グラフェンの研究でノーベル物理学賞も授与されています。そのような最先端の研究を目指し、特にダイヤモンドとの関連研究を 行っています。ダイヤモンドも実は炭素材料で、タイヤの黒色とダイヤモンドの美しさは対局にあるように思えるかもしれませんが、炭素原子の結合様式の違い だけで様子が激変するのも化学者からみた炭素の面白みに思えます。



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